東京下町の情緒100景(068 七曲)
更新日:2007年7月 3日
関東地方の川は秩父連峰、丹沢連峰から流れてくる。河口近くになると、直線の形状で東京湾や相模湾に流れ込む。
一級河川の中川は葛飾の町なかに入ると、とたんに曲がりくねる。曲がりは一つや二つではない。幾つも蛇行をくり返す。そのうえ、極度の鋭角で曲がる。
中川・七曲の朝は東京湾からかもめが飛来し、鳴きながら、群れて遊ぶ。日中になると、河船がエンジン音を響かせ、橋下を潜り、上り下りする。日暮れになると、茜色の夕焼け雲が川面に映る。夜には河岸の灯火が揺らめく。どの情景も良い絵になる。
「曲者・くせもの」といえば、怪しげな者を意味する。正体を見せず、素顔を隠す。中川の七曲には、七つの曲者がいるのかもしれない。
古老に聞けば、終戦の中川は堤防が決壊し、ゼロメートル地帯の下町が広範囲に水没したという。濁流が家屋に流れ込んだ。七曲はS字型の連続だ。どこが陸地で、どこから河川なのか、境目がわからず、怖かったという。このとき、濁流にのまれた町の交通機関は小舟だったと語る。60年前の大都会、東京の実話だ。
七曲はきょうも緩やかな表情で流れる。河岸には大きなマンションが建ち、川の情景が変わってきた。七曲には七つの曲者が潜む。次はどんな牙を向けてくるのだろうか。