東京下町の情緒100景(066 朝の公園)
更新日:2007年6月19日
夜が明けると、児童公園には隣近所の住民たちが清掃用具を持ち寄ってくる。
お揃いのウインドブレーカーを着ている。これだけでも、住民の心が一つになれるから、不思議なの。朝の清掃は地域の奉仕というよりも、私の心を掃き清めるためにやっているのよ。
きょうは地面がことのほか乾いているわ。吹く風が肌に感じられる。南風だわ、だから寒くない。丁寧に履かないと、砂埃が立つ。私は慎重になる。
園外の周辺道路にも足を伸ばすの、いつも。私有地の道路とか、公道とかわずわしいことなど考えない。みんなの生活の道なのだからだ。心を磨くように隅々まで丁寧に掃くことが、私の心を納得させる。
『おはよう』
通勤する人たちが自転車で、路地からやってきた。
「いってらっしゃい」
「お世話さま」
感謝のことばをもらえると、一日が明るく感じる。
清掃用具を小屋に片付けはじめると、公園の風景がたちまち変わってくる。ほら、来たわよ。ランドセルを背負った男の児がいつも一番乗り。遠くから大声で挨拶する児よ。元気がいいわね。明るくて、とてもいい。
公園が集団登校の集合場所。あちらの路地から、かわいい姉妹がやってきた。ふたりとも、きれいに髪を結ってもらっている。大きな声の挨拶。こちらまで活力がもらえるわ。全員が集まったみたい。
「いってらっしゃい」
上級生を先頭に、列をなした子どもたちが出発していく。他の方角からも、別の集団がやってきたわ。きょうも、いい朝だこと。
もうすぐ、保育園の園児たちがやってくるわ。園内で、楽しげに駆けまわるはず。ちょっとのぞきに来てみようかしら。