東京下町の情緒100景(059 少年サッカー)
更新日:2007年5月 7日
細い路地で、ぼくたちは毎日サッカーボールを蹴る。この時間が一番楽しい。将来はJリーグだ。もっと、その上だ。
独りチームだから攻撃、防御、すぐに入れ替わりだ。相手にスキを与えられない。うかうかできない。スピードが勝負だ。
ぼくたちにはユニフォームなんて要らない。グラウンドや広場がなくてもいいんだ。狭い路地のほうが、コントロール力がつく。俊敏になれる。センスだ。
南米の少年だって同じだ。レンガ造りの家々の路地裏で、ボールを蹴り、上手になり、ワールドカップのヒーローになっていく。路地裏から出た1億円、10億円プレーヤーは沢山いるんだ。僕たちは木造作りの家々の路地で、ボールを蹴る。地球の裏側の少年プレーヤーとおなじ条件だ。
自転車に乗った人がくれば、カーブでシュートだ。まずい、自転車の荷台カゴに入ってしまった。これじゃあ、バスケットボールだ。
さあ、ハーフタイムは終わったぞ。
「セイが出るね」
隣のオバさんが二階のベランダから顔を出した。
これまで何度もボールで、植木鉢をひっくり返しては怒られた。もっと上手に蹴りなさいよ、と。内心は応援してくれているんだ。
「へぼね、どこ向いて蹴っているの。それじゃあ、どこの高校からも誘いが来ないわよ」
と激と喝を入れる。
このオバさんの目標は低すぎるんだ。ぼくたちの目標は高校サッカーじゃない、ワールドカップなんだ。下町の少年サッカーだって、世界に羽ばたけるんだ。
「夢じゃない。実現させるんだ」
僕たちは燃えているんだ。