A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(058 駅前広場)

 駅前はどこも町の顔のひとつ。下町も例外ではない。

 私鉄駅の改札を出れば、素顔の飾りっけがない、雑多な雰囲気の駅前広場がある。構図は不統一で、無造作で、まとまりがない。色調も、雑駁としている。駅前というよりも、野外ということばが似合う。下町のひとは安心感、落ち着きを感じるのだ。

 男子高校生が「証明写真ブース」から出てきて、商店街の方角に向かう。バイトの履歴書の顔写真を撮っていたのだろう。近くの路地裏の新築現場から工事人が駅前にやってきた。作業ズボンから小銭を取り出し、飲料自販機で、立て続けに缶コーヒーを買う。きっと仲間の分も頼まれたのだろう。


 工事人は、これから電車に乗ろうとする女性と飾りっ気がない挨拶する。40年まえの地元小学校の同級生らしい。

 踏切警報機が鳴っている。あちら側、こちら側、ともに待つ人たちの顔には気取りがない。遮断機が開くと、歩く人、自転車の人、ともに一言、二言、声を交わす。大きな看板がそれら行きかう人を見つめている。

 下町の玄関は駅前だ。それでも、美しく飾ろうとしない。だから、電車を降りると、すぐさま生きる人たちの息づかいが聞こえる。

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