東京下町の情緒100景(056 惣菜屋さん)
更新日:2007年4月28日
主婦って、大変。毎日の食事を考えるだけでも、疲れる。祖父母を入れて6人家族。下町でも、いまどきはめずらしい大家族。それぞれ食べ物の好みが違う。
だから、大変。夕飯の仕度を考える時間になると、頭が痛い。
(今日の夕食は、何にしようかしら?)
夕食の組合せをいろいろ考えてみるけれど、いつも頭のなかが白紙になったように、メニューが思い浮かばない。それでも主婦は考えなければならない。
夕暮れ前になると、つい仲見世の惣菜屋さんに足を運ぶ。品数が豊富で、たいへん便利な店だから。
祖父母にはこのキンピラ、切干大根、ヒジキ煮にしようかしら。切干大根は一昨日だったしね。
(姑に嫌みを言われそう、毎度おなじみだね、と)
これだけ品物があるのに、いつも、いつも、惣菜屋さんの店頭でも悩んでしまう。ため息が漏れてしまう。いいわ、煮物の盛り合わせに決めた。
夫の晩酌は発泡酒と枝豆でいいわ。でも、ちょっとさみしいから。若鶏の唐揚げをつけてあげる。これならば喜ぶ。あとの料理は手抜きをしても、ごまかせる。
問題はふたりの娘たち。家事の手伝いは一切しないのに、味付けだけはうるさいのだから。 高校生の娘は部活でお腹をすかして帰ってくる。そのわりには食べ物にはいちいちうるさい。てんぷらが好きだから、春菊天、さつまいも天、ちくわ天で決まり。これなら味のことはとやかく言わないし。
長女はこのごろ会社の男性と付き合っているみたい。帰りは遅い。ときには深夜になる。夕食を食べなければ、早めに電話はよこさないと、何度いってもかけてこない。きょうは夕食の準備はやめておこうかしら。こんな日にかぎって早く帰ってくる。
「私は酢豚にしようかしら」
娘が早く帰宅してきたら、それを回す。それに決めた。