A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(054  小さな滝)

 下町の一角にはお洒落な滝がある。知っている? 知らないよね。人工の滝だけど、それなりの美観があるんだ。

 岩をかたどる壁面に、白糸の滝のように澄んだ水が落ちる。朝夕に絶えることなく、さらさら流れ落ちている。昼時にはそばに滝を感じるだけで、涼感はたっぷり。だから、ぼくたち若い連中には人気がある場所なのさ。

太陽の光が強くなった初夏なんか、穴場なんだ。これ以上ひとに知れると、縁石に腰を降ろす場所がなくなるから、皆で秘密にしているのさ。地図には出ていない、GPSでもつかめない滝だ。

滝壺の水のなかでは、直射の陽光がキラキラきらめく。歩道のほうでは、桜並木の木漏れ日が路面で、陰陽で踊っている。光の表情は豊かだ。多芸な踊りだ。調子で、変化する。じっと見ていても飽きないし、愉快な気持ちにすらなれる。

時どき見かける、滝仲間が二人やってきたぞ。かれらもきっとこの場所で一列にならび、一様に背中から小滝の涼を取る。背後の水の音は耳に心地よい。友達どうしの会話のいいBGMだ。

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