A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(050 乾物屋の店番)

 下町の仲見世の乾物屋さんは、憩いの場だ。店頭いっぱいの平台には乾物が並ぶ。お客が来れば、3人で『いらっしゃいませ』と声をかける。
 ひとりが店主だ。ほかの2人は「うちらは店番の手伝いだよ」という。立ち寄る客はだれも高い安いなど価格はいわない。

「急がなければ、話していきなさいよ」と、見ず知らずの人をも店番仲間に誘い込む。『うちはそろそろ帰るから、こっちの椅子に座るといい』と場所を空けてくれる。
 それでいて、3人の会話は続く。

 昔だったら、うちら3人の別ピンさんが店番で座っていたら、男は黙っていないよ。下町の美女連と騒がれたものだからね。街に活動映画が3軒あった頃はね、映画のスチール写真の女優に似ているといわれたものだよ。


 そういえば、街角に映画のポスターが貼られていたころ、夕方の仲見世は買い物客で肩がぶつからないと歩けなかった。流行っていたね、仲見世は。このごろは通行人が少なくなったね、半減以下だね。

「仲見世が廃っているんじゃないよ。少子化っていうんだって。その影響よね。うちは7人産んだけれどね。あなたは?」
「2人よ」
「すすんでいるじゃないの。少子化の先取りだね」
「あの頃は流行り物を着ていないと、時代に遅れる気がしていた。だから、スタイルを気にして、あまり産まなかった」
「上手いこというわね」
「ほんとうは2人目が難産でね。産婆さんが、母体が危ないから、もう打ち止めがいいといったから。うちの亭主は不満だったよ。子煩悩だったからね」
 下町の乾物屋の店内では、あけすけな楽しい語らいがつづく。

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