東京下町の情緒100景(030 通信塔)
更新日:2007年1月10日
あの鉄塔はなんの電波を受信しているのか。それとも中継なのか。電波は見えない。生活のまわりでは情報の渦が巻く。見るもの、聞くもの、大半が電波に乗ってやってくる。文化の進化に疎い下町でも、それは例外ではない。
街なかにぬっと突き出た鋼鉄製の通信塔。それをじっと見つめていると、火の見櫓はどうしたのだろうか、と思った。
江戸の大火の頃から、火の見櫓は大切な情報の源のはずだった。火事の方角、逃げる場所を教えてくれる。
ひとたび火事となれば、櫓の上で、飛び職人が半鐘を打ち鳴らす。懸命に火事を知らせる。火消しを呼び集める。庶民も一体になって火を消す。
あの通信塔は何の情報を伝えてくれているのだろう。拘泥しても、電波は見えない。読み取れない。きつと大切だといわれる情報だろう。
「そうか。火事は、消防車のサイレンがくれるのだ」。耳をすませていると、消防車は遠くから来て遠くに消えてしまった。このまま安堵しておけばいいのか。