東京下町の情緒100景(029 小さな森の公園)
更新日:2007年1月10日
社の裏手の小さな森では、潅木が燃えている。紅葉の名所でもなければ、有名でもない。名すらも知れられていない狭い広場。大人の足ならば、ものの一分で通り過ぎてしまう。
吹き抜ける秋風が紅く色づいてきた。枯葉が風に乗り、静かに舞い降りる。芝生の上で心地よさそうに横たわる。
少女が芝生を駆け、鳩の群れを追い散らす。迷惑そうな鳩がちょっと羽ばたき、場所を移す。幼子はケラケラ笑いながら、鳩を追う。
狙われたのは白鳩。ひょいと横飛び。少女はなおも両手を広げて追う。白い鳩はとうとう堪忍袋の尾が切れたのか、高く飛び上がった。老人がベンチに座る休憩所の屋根から見下ろしている。
「さあ、帰ろうね」
母にさとされる。
「もっと遊びたい」
「ただをこねたらだめよ。パパが待っているでしょ。お家で」
「会社だもの」
「そうか。会社だね。ママは勘違いしていた。鳩さんがバイバイだって」
「鳩さんともっと遊びたい」
「嫌だといって、降りてこないでしょ。屋根の上から。わかった?」
「何か買ってくれる?」
「おりこうだったらね。行きましょ」
母に手を引かれて、幼子は家路に向かう。
幼い子の目には大きな森の広場にみえるだろう。大人になれば、母に連れられてきた遊び場がこんなも狭い公園だったのか、とおどろくはずだ。それでも、大きな思い出には違いない。