東京下町の情緒100景(仲見世 025)
更新日:2006年11月16日
仲見世は庶民の日常の買い物の場だ。入口から手作りの味の店がならぶ。あえて〈老舗〉と看板を出さずとも、数十年来の伝統ある店舗ばかり。大半が二代目、三代目の店主なのだ。
野菜を路面にならべた八百屋。老夫婦が朝から作った煮物を売る総菜屋。三枚下ろし、二枚下ろしと年季の入った包丁捌きの魚屋。珍味食料品店。こだわりの麺匠。まさしく庶民の味の宝庫だ。
食品のみならず、洋品店も軒を連ねる。写真屋、雑貨・袋物店、小間物屋、そして喫茶軽食だ。店内に入れば、トッコロテン、三つ豆、うどん、中華そば、カキ氷と品目が壁面に並ぶ。となりが天ぷら屋。薬局。となりがガラス店。どこの店舗も間口が五メートル以内だ。
陳列横でコロッケを揚売りする肉屋。『ぜったいうまい豆腐、どれでも一袋210円』の看板。近くの店から、手焼き煎餅の香ばしい匂いが漂う。中年のおばさんがいつも焼いている。斜め向かいの店は、あんこが美味しい伝統のある人形焼。焼きたてを紙箱に詰めてくれるので、重宝なお土産にもなる。
夕暮れになると、仲見世の一角には一杯飲み屋の赤提灯が下がる。暖簾をくぐった旦那衆が円椅子に腰を据え、コップ酒を飲みはじめる。家族の手土産におでん屋に立ち寄れば、女将が昆布、玉子、竹輪、さつま揚げと一つずつ掬ってくれる。この店は確か三代目だ。
仲見世の店は統一もなく順不同で雑然と並んでいるようでも、入口から出口まで歩けば、一通りものがそろう。同時に、買い物の情感までも楽しめる。