A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(夕日 020)

 晩秋の空の下で、夕日が西に傾いた。浮雲の一つひとつが、茜色の濃淡で、個性豊かな表情をつくる。川向こうの町並みが奥行きをなくした、シルエットを作りはじめた。

手前の川面には、燃える落日の帯が縦長できらめく。此岸まで近寄る。護岸道路を行きかう通行人の顔が、夕日で赤く染まる。


 太陽が落ちるほどに燃え盛り、多彩な雲はなおさら華やに輝き、錦絵の空になる。紫色、藤色、白っぽい青と微妙な背景の変化をみせる。神秘な色合い、尊厳な世界だ。

 夕日が対岸のかなたに沈んでしまった。空はなおも燃えているが、川面は暮色で濃くなる。

 川船のタンカーが上ってきた。喫水線と甲板がおなじ高さに思える。重たげな速度だ。船脚の波が角度よく三角形で拡がっていく。船脚は鈍いが、蛇行する河川の上流へと消えていった。

 夕暮れの情景はさらに沈み、影と灯火の世界へと呑み込まれていった。

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