A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(ママと一緒 017)

 ふだん私、いつも鍵っ子なの。でもね、土曜の午後は特別な日なの。おもちゃ工場で働くママが、
「お昼は、外で、なにか食べましょ」
 と自宅に帰ってきてくれるの。だから、楽しいの。玄関で靴を履いて待っているの。でもね。迷ってしまうの。なに食べようかな、と。


 表通りで友だちに会うと、自慢できるの。
「きょうはママと一緒なんだ。お昼を食べるんだ」
 みんなに教えてあげるの。こうしてママと手をつないでいるところも、見せてあげるの。
「早く決めてね。時間がないんだからね」
 ママの口癖なの。いつも急かすの。


「スパゲティがいいかな? ハンバーグが良いかな?」
「決まった?」
「ううん。まだ」
 きのうから、ずっと考えているんだけど、決まらないの。

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「決まった? お昼休みは1時間しかないんだからね」
「まだ」
「だったら、ママの好きなものにするからね」
「じゃあ、スパゲティだ」
「外れ。辛いからいラーメンよ」
「やだ。そんなのは」
 ママの横顔を見たら、ウソだとすぐにわかった。 

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