東京下町の情緒100景(商店街はよき古を語る 009)
更新日:2006年9月 8日
駅前には踏み切りがある。赤い京成電車が通り過ぎると、遮断機が開き、買物客が左右に行き交う。線路に分断された商店街がある。かつては下町最大級の商店街だった。
実に長い距離で、3駅続きの商店街だ。道の両側には切れ目がなく、店舗がならぶ。
アーケードから一つ外れた、裏通りの商店街に足を向けてみる。
人形焼の甘く香ばしい匂いが漂う。立ち止まって、財布を取り出す。いつも匂いにつられてしまう。手造りの製造販売だ。数十年来の馴染みの顔として憶えられている。
数件先では煎餅焼のおばさんが、黙々と一枚ずつていねいにタレをつけている。裏表をひっくり返してさらに焼く。やがて出来上がると、木製の陳列ケースに入れる。
家族に買って帰ることにする。
となりはむかし風情の食堂だ。古い暖簾をくぐれば、壁面にカレーライス、親子丼などの定番メニューがならぶ。トッコロ天、カキ氷、みつマメなども売っている。
斜め前は、てんぷら屋で、後継ぎがいなくて、『閉店』の予告札を下げる。
「さいみしいね。おたくもたたむのかい」という客の声。
「時の流れだね」
店主は覚悟を決めているのだろうが、妙に淋しげな顔だった。