東京下町の情緒100景 (路地裏が魅力 001)
更新日:2006年7月14日
低い屋根の庇(ひさし)で縁取られた青空の下から、東京下町人情が生まれる。生きる知恵もでてくる。この町の情緒の原点を探して歩いてみた。
朝の柔らかい陽が路地の狭い空間に射す。 家屋の壁面が立体的なオープンガーデンだった。花を愛するひとには庭がなくても、ガーデニングを楽しむ知恵があった。
色彩豊かな花はまだ露にぬれていた。通りすがりの女性が足を止めた。
「きれいね。いつも楽しませてもらっているわ」
そんなふうに花の手入れをはじめた家人に声をかけた。ふたりはさほど親しい関係でもないらしい。
「一輪持っていきますか」
ごく自然な会話が交わされている。
剪定バサミの音が小気味よい。
「これはなんていう花ですの?」
カサブランカ、日々草、ポーチュラカ、瑠璃まつり、ジニア。一つひとつ説明がある。気さくな会話がつづく。花はまさに心の潤滑油だ。
陽がさらに昇り、花の色合いが一段と鮮明になった。ほかの通行人が、ベランダの花がきれいだといえば、それを摘んできてくれる。それは花自慢でなく、通行人と花を共有する精神だろう。
気取りがない路地から、心がなごむ空間、下町の情感が生まれてくるようだ。下町の心はまさしく路地に凝縮されているといえる。