[寄稿・エッセイ】夫の読書会=三ツ橋よしみ
【作者紹介】
三ツ橋よしみさん:薬剤師。目黒学園カルチャースクール「小説の書き方」、「上手なブログの書き方」の受講生です。児童文学から大人の現代小説に転身しました。
夫の読書会 文・写真 三ツ橋よしみ
「晩ごはん、いらないよ」
そう言って、夫は出かけて行きました。
きょうは月に一度の「夫の読書会」なのです。会場は御茶ノ水の小さな喫茶店で、5,6人が参加するそうです。
夫の一郎は、旅好き、山好き、マラソン好きです。パソコン脇の本棚には、旅、山、温泉関係の雑誌がいっぱい。「金魚の飼い方」「メダカ・おたまじゃくしの飼い方」といった本も並んでいます。根っからのアウトドア人間です。そんな人間がいそいそと「読書会」ですって。どうなってるんでしょう。
「なにね、会社も定年になったことだし、今までやらなかったことを始めようと思ったんだ。たまに小説を読むのもいいかなって。でも、何を読んだらいいかわからないから『読書会』なんだ」
ふん、わたしには、読みたい本がわからないってことが、わからないですが……。そういう人もいるんですねえ。
わたしはといえば、多読、早読みの、活字中毒なのです。書店で新刊をチェックし、話題の本は必ず購入します。もちろん、ネットで本探しもしょっちゅうです。読み終えた本は、こまめに中古店に売りに行き、帰りに文庫本を買ってかえります。いつも手元に読みかけの本がないと、落ち着かないのです。
夫の読書会の、一冊目は横山秀夫の「クライマーズ・ハイ」でした。一郎はまずネット書店のアマゾンで新品を取り寄せました。アマゾン、デビューです。人気のある作家ですから、ブックオフに行けば、いくらでもあるでしょうに。一郎は書店に出向いて、本を買うことさえおっくうらしいのです。沢山の本に圧倒されちゃうのかもしれません。