日本中から最も日本らしいおすすめの観光地を1か所選べと言われたら、私は文句なしに浅草を選ぶ。
昭和35年上京して以来、田舎から来る家族や親戚を、まず浅草へ案内してきた。
最近は都会らしいビル街や、繁華な商店街は地方都市でも、あちこちに似たものがあるが、雰囲気は似たようなものである。
しかし、浅草に似た雰囲気の町はどこにもない。
外人にも人気
外国人の観光客にとっても、日本の訪問地の筆頭にあがるのは浅草であろう。
浅草寺の二天門の外にはバス駐車場があり、そこから中国人らしい団体客が観音様の境内へ出かけているのによく出会う。欧米人は個人観光が多いのか、仲見世ではよく見かけるが、二天文の団体バスの近くではあまり見かけない。
二天門そばには浅草神社があり、その祭りは、三祭として有名である。
44か町内から100基以上の神輿と、この神社からも大きな神輿が担ぎ出され、町をねりまわる。
雷門から仲見世の本通りは整ったにぎやかな店が続く。宝蔵門、五重塔、本堂の大きさと風格などは、外国人にどうだと言ってやりたいほど見事である。
ある日、日本に滞在して2年ほどのアメリカ人と浅草寺に出かけた。本堂の前で日本人と同じように手を合わせてお参りをしたのは、何かを感じたからに違いない。
後で私に聞いてきた。日本人はみなさん本当に信じてお参りをするのか、そしてご利益はあるのかと。もちろん信じてお祈りする、ご利益もあると言ったら、どんなご利益があるかと、また聞いてきた。君たちがアメリカの教会で献金してお祈りする、イエス様と同じくらい大きな恵みを与えて下さるのだ、わかるかい、と言ってやったら、にやり笑ってよくわかったと言ってくれた。
仲見世以外の街並みや裏手に当たる花やしき、芝居小屋や寄席など見るところや、おいしい食べ物屋さんも沢山ある。
おまけに、新しい観光名所のスカイツリーの眺めも、そばよりも、浅草の吾妻橋あたりからの方がずっといい。
年の暮れがおすすめ
5~6年まえ、初詣に浅草寺へ出かけたことがあった。混雑を避けるため、元日でなく、3日に出かけた。ところが参拝客が押すな押すなで、大勢の警官が整理をしていたが、仲見世にも近づけない。1000メートル近い参拝行列の最後尾は、吾妻橋の袂だったので、お参りせずに帰ってきた。
正月の雰囲気を味わうためならば、年の暮れが迫ってからの方が良い。各通りの飾り付けはすべて完了しており、店のショウインドウを見て歩けば、一足早く正月気分を味わえる。
震災の被害
東日本大震災の時、私は京王線・明大前駅の近くで夜を過ごし、翌朝早く地下鉄で上野までたどり着いた。
しかし、上野駅は改札止めで、近所の飲食店も満員で入れず、やむ無く浅草に出た。
朝8時、開いている喫茶店で食事をしながら、お客さんと雑談をした。客の一人の奥さんは、観音様の境内で地震に遭遇したという。
すごい揺れでしゃがみこんだ所が、五重の塔のそばだった。塔は揺れ、先端の宝珠は釣り竿みたいにしなった。そのうちすごい音がして塔が折れて、先端の2個の宝珠の1つが瓦屋根の上を転げ落ちてきた。生きた心地がしなかった。
私は浅草寺にお参りした。宝珠は一つであった。帰りに寺の事務所の人が、
「本堂は前の年までに数年がかりで、耐震のため軽いチタン瓦に変更したので全く被害が無く、助かった」
と説明してくれた。
古い写真を見ると宝珠が2個ついているが、震災後の宝珠は最近も1個のままである。
あれを修理するには足場を組み、宝珠を根元から外すなど大変な工事であろう。
日本笑い学会の研究会があるので、毎月1回は浅草に出かけるが、昔懐かしい風情を残し、見物、買い物、食べ物などいろいろ楽しめて、飽きることがない。
この浅草の情緒がいつまでも残っていてほしいものである。