大久保昇さんが句集『天職へ』を発刊する=後世に残る名句だろう
大久保昇さんは、全国の大きな俳句の特選を数多く受賞されている。栄光として、4カ所には受賞記念の句碑がある。かれは正直なところ口下手だ。俳句教室でもやれば、30-50人の受講生は集められるだろう。それが未だなされていない。器用な生き方が苦手な類だ。
かれはかつて30代~40代の頃、毎日、清掃業の過労な職種で、老母を養し、貧乏しながらも懸命に創作活動をしていた。朝4時台に起きて、まだ戸外が薄暗い5時頃に一番電車に乗って職場に向かう。大手デパートの清掃会社の下請けならず、さらに孫請けの零細会社だから、夜までサービス労働だ。黙々と働きながらも、創作活動をする。
『噴水の飛沫過労の口濡らす』と俳句にしている。
それでも、かれは『一日、10句を作る』。それを自分に課している。現代の山頭火だと、私は思っている。
大久保昇さんは努力家だ。
『飴ほどの石につまづく夜業明け』と俳句に詠う
過酷な職場でも、かれは寝る時間を惜しんで、23歳から8年間かけて、通信教育課程で東洋大学を卒業している。と同時に、俳句の創作に専念してきたのだ。他の遊びごと、賭け事などはいっさいおこなわない。
著名な俳人でも、句集の単行本は商業的に成り立たないので、まず出版社は乗ってくれない。ほとんどが自費出版だ。かれは受賞金をこつこつ貯めて「天職へ」を自費出版したのだ。
自費出版といえば、どこか見下した社会の風潮もあるが、島崎藤村の名作「破戒」すらも、差別部落の教員を主人公に扱い、どこも出版してくれなかった。藤村は自費出版し、後世の名作となった
山頭火が旅先から仏教学者・大山澄太(すみた)に日記と俳句を送っていた。大山氏が出版したことから、山頭火が世に知れた、という経緯もある。
大久保昇さんの『天職へ』も、どこか後世の名句への道をたどるような気がする。
同書の帯には、鍵和田柚子さんが、『雪の窓を開け天職へ踏み出さむ』を取り上げてから、『自分にあった職業を大切にして、懸命に生きる誠実な作者像が見えてくる。とくに「天職」の惜辞に心打たれるものがある」と記す。
大久保さんの自選としては、
『捨てられし豆電球の下萌ゆる』
『着ぶくれて銀座すばやく通り抜け』
『池の底真っ直ぐに這う蛙かな』
『鴨さざめき夕闇の水傷だらけ』
『チューリップ飴の包みを入れられる』
『雪だ雪だと椅子のみんなが立ち上がる』
『噴水の飛沫過労の口濡らす』
『飴ほどの石につまづく夜業明け』
『汗にじむネクタイ助言受け止むる』
『帰省して柱の夕立撫でてをり』
『向日葵の先住民の如く立つ』
『雪の扉を開け天職へ踏み出さむ』
【関連情報】
句集「天職へ」本体2300円+税
購入先 : 大久保昇
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