【寄稿・孔雀船】 月が欠ける前にペンギンが囁くこと 望月苑巳
あなたはペンギンの抱擁を見たことがありますか。
ある日母が解体した
時間は罠であり
謎の病だと知って
月が欠ける前に
ぼくは骨を食べことにした
焼きあがったばかりの
母の骨を食べる
感謝しながらうっとりと
カリカリ、シャリシャリと
時々泣きながら気晴らしに遠吠えもしてみる
すると妻が走ってきてやめろという。
僕は見たのです。
「ダンスの時間」という映画の中で、たがいに体を預けあってうっとりと目を閉じ、無我の境地に達しているその生物を。ぴったりとくっついたそのからだの隙間には、どんなえらい神様も入り込む余地などありませんでした。
完全無垢な天地創造の原理もそこには意味がないというように、未来永劫書き変えられない過去がありました。そのとき、こちらの気配に気づいたのか、半開きになったペンギンの目が、「人間にだってできるんだよ」と笑っているようでした。
妻は骨をひったくると
ぼくの首を絞める
ぼくは母の骨の心臓を吐き出してうっとり
食べながらうっとり
吐きながらうっとり
どちらが本当の気持ちなのだろう
欠けはじめた満月が鎌になり
ぼくの首を斬り落とそうとしている。
イラスト:Googleイラスト・フリーより
【関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳
〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738