【孔雀船105号 詩】 ポンデローサ松の告白 高島清子
更新日:2025年4月23日
( 何よ あれはパイナップルの芯じゃないの )
詩人の声が降ってきたのだ
詩祭が良く開かれていたあの頃
ホテルの入り口に置かれていた大きな松ぼっくりに
足を止めたその人を私は覚えていた
六本木のゴトー花屋は
カナダから着いたばかりの
クリスマス用の松ぼっくりを並べていたから
通りすがりの私はすぐさまあの詩人に贈ったのである
彼女の笑顔を想像して
( なんてお洒落なプレゼントあなたらしいわ )
詩人から電話が来た
松の木はパインニードルだけれど
いくら似ているとはいえパイナップルの芯であるわけはないのにと
苦い思いが長く残った
おそらくは羨ましく思った詩人の取り巻きの一人が
何気なく言ったのだとしても
素直に信じた詩人も無邪気なものだと
菩薩のような美しい唇から
何という言葉が発せられたものか
しかし松ぼっくりは今まで私を待っていてくれたのだ
ある日科学博物館の硝子の中にその名を見つけた
ポンでローサ松である
パイナップルの芯じゃないの
怒気を含んだ詩人の一言が私から消えた
どれ程似てはいても同じものはない
私に似ている人も私ではない
カナダの青い森はこの時も白い冬を振り落としている
【関連情報】
孔雀船は105号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
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