A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船105号 詩】 二〇二四年 秋 尾世川正明

   ある日

まがったもので撫でる
とがったもので刺す
おのれの頭蓋骨のなかに暗い間隙を受け入れて
もうあと十万回
心臓の拍動をかぞえる
心臓000.png
   岩場

その岩陰では
お産をしない習わしだった
そこは地磁気がすこし強すぎて
頭が狂ってしまうし
時に蛇が卵を産んでいるので
お産には向いていないのだ

   丘陵地

広い丘陵地にはいくつかの詩が重なり合い
大地にトランポリンのような弾みと
輝きを与えている
青空からひかりとなってゆっくりと降ってくる
したたり落ちる乳と蜜

   樹

樹にも感情があるのだろうか
雨を浴びて気持ちがいいとか
激しい強い夏の陽射しは
葉のおもてに張ったかたい嫌悪の緑で
はじき返してしまいたいとか
風が渡る明るい朝には
樹液をしみ出して
かわいい虫たちに吸わせてやろうとか

   二月

二月が始まり立春もすぎて
雨水と呼ばれる季節のことである

それは紐を解いたひな人形の古い埃の匂いではない
開きかけた紅梅の甘い香りでもない

遠い距離を風に乗って漂ってきたちいさな粒子が
鼻粘膜につくと成長して手足を伸ばし
美しい姫になった

   旅

山間の谷で
老人が死んだとき
子供の周りにいたのは
一緒に育った
山羊と雌鶏と猟犬だけだった
老人を土に埋めてから幾日か
子供は山羊と雌鶏と猟犬をつれて
遠い星の赤い沙漠へと
旅立った

   言葉

言葉で作り出した目に見えないもののために
愛された人々の命を奪うものたちよ

地獄に落ちよ

言葉は愛された人々を飾る軽やかな衣裳となれ
愛された人々が踊る愉快な音楽となれ

二〇二四年 秋  (尾世川).pdf

【関連情報】
 孔雀船は105号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738
  メール teikakyou@jcom.home.ne.jp

イラスト:Googleイラスト・フリーより

*各短詩間の行数、題の行数などは編集にお任せします。

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