A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船104号 詩】 耳たぶ 日原 正彦

待合室で 前に
坐ってる人の耳たぶを見ている
大きな耳たぶだ

それから急に自分を叱った

その耳が 今
診察室でどんなことを聞いているのか

何もわからないのに
耳たぶのふくよかなことだけをちょっと羨ましがっているこの愚か者

その人がドアを開けて出てきた
明るい顔でも暗い顔でもなかった
大きな耳たぶはやはり二つあって
二つとも黙っていた

その人の口も黙っている
黙っていることのなかに
その人の 今 が しまわれている
鈍くてもいい
それが光っていてほしい と 思う

私の名が呼ばれた 
私は棒切れのように立ちあがった
貧弱な耳たぶが震える
それを背後から見ているもの
それは たぶん人ではない


耳たぶ日原.PDF=縦書きで読めます

【関連情報】
 孔雀船は104号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738
  メール teikakyou@jcom.home.ne.jp


イラスト:Googleイラスト・フリーより

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