【孔雀船104号 詩】 耳たぶ 日原 正彦
更新日:2024年9月22日
待合室で 前に
坐ってる人の耳たぶを見ている
大きな耳たぶだ
それから急に自分を叱った
その耳が 今
診察室でどんなことを聞いているのか
何もわからないのに
耳たぶのふくよかなことだけをちょっと羨ましがっているこの愚か者
その人がドアを開けて出てきた
明るい顔でも暗い顔でもなかった
大きな耳たぶはやはり二つあって
二つとも黙っていた
その人の口も黙っている
黙っていることのなかに
その人の 今 が しまわれている
鈍くてもいい
それが光っていてほしい と 思う
私の名が呼ばれた
私は棒切れのように立ちあがった
貧弱な耳たぶが震える
それを背後から見ているもの
それは たぶん人ではない
【関連情報】
孔雀船は104号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
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