A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船104号 詩】 遠い春  齋藤 貢

ひとの声が届かぬところに
そっと、火をつけて。
だれにも気づかれぬように
災いや恐怖を、そこに置き去りにしたままで。

春は、一目散に逃げていった。
原発事故 逃げる イラスト.png
取り返しのつかないあやまちをたくさん残して。

汚れたあしうらを
どれほど洗い落としても
土地の痛みは消えないだろう。

みちのくの
小さな声が、見えない春に問いかけている。
火をつけたのは、だれか。
恐ろしい災いを置いていったのはだれか、と。

あの日から、
ひとはうなだれて、肩を落として歩いている。
苦しいなぁと、こころのなかでつぶやいている。

奥歯をかみしめて
必ずまたここに戻ってくるからね、と
ひとは、何度も同じことばを口に出しては
それでもまだ、迷っている。

春は戻って来るのかしら、ね。

みちのくは、花冷えの遠い春だ。

反辞(かえし)


東日本大震災と原発事故によって、ふくしまは、放射線に苦しめられました。そして、ひとの分断にも。強制的に避難を余儀なくされたひと。自主避難せざるを得なかったひと。避難したくても避難できなかったひと。それぞれが孤独な戦いを強いられました。それはまだ終わりません。「帰還困難区域」が残されていて。ふるさとに戻れないひともたくさんいて。

「遠い春+反辞」(斎藤貢).PDF=縦書きで読めます

【関連情報】
 孔雀船は104号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738
  メール teikakyou@jcom.home.ne.jp


イラスト:Googleイラスト・フリーより

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