【孔雀船104号 詩】 遠い春 齋藤 貢
更新日:2024年9月22日
ひとの声が届かぬところに
そっと、火をつけて。
だれにも気づかれぬように
災いや恐怖を、そこに置き去りにしたままで。
春は、一目散に逃げていった。
取り返しのつかないあやまちをたくさん残して。
汚れたあしうらを
どれほど洗い落としても
土地の痛みは消えないだろう。
みちのくの
小さな声が、見えない春に問いかけている。
火をつけたのは、だれか。
恐ろしい災いを置いていったのはだれか、と。
あの日から、
ひとはうなだれて、肩を落として歩いている。
苦しいなぁと、こころのなかでつぶやいている。
奥歯をかみしめて
必ずまたここに戻ってくるからね、と
ひとは、何度も同じことばを口に出しては
それでもまだ、迷っている。
春は戻って来るのかしら、ね。
みちのくは、花冷えの遠い春だ。
反辞(かえし)
東日本大震災と原発事故によって、ふくしまは、放射線に苦しめられました。そして、ひとの分断にも。強制的に避難を余儀なくされたひと。自主避難せざるを得なかったひと。避難したくても避難できなかったひと。それぞれが孤独な戦いを強いられました。それはまだ終わりません。「帰還困難区域」が残されていて。ふるさとに戻れないひともたくさんいて。
【関連情報】
孔雀船は104号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
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