【寄稿・フォトエッセイ】 久しぶりのパリ=久保田雅子
【作者紹介】
久保田雅子さん:インテリア・デザイナー。長期にフランス滞在の経験があります。(作者のHPでは海外と日本のさまざまな対比を紹介)。
周辺の社会問題にも目を向けた、幅広いエッセイを書いています。
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作者のHP:歳時記 季節と暦の光と風・湘南の海から
久しぶりのパリ 久保田雅子
気候のさわやかな10月に、しばらく住んでいたパリへ行くことにした。
準備が以前よりも、あわただしく大変で、出発前から疲れてしまった。年を取るとなんでもが少しずつ大変になってくるのかもしれない…、と思いながら一人リムジンで成田空港へ向かった。
12時間近く飛行した後、パリのシャルル・ド・ゴール空港に到着。空港の様子が以前とはすっかり変わっていた。空港のなかを電車が走っている。
パリはもう寒いと思っていたのに、東京と同じようにむし暑い。
税関を通過して到着ロビーに出たが、迎えに来ているはずの友人がいない。
私がいつも滞在するのは、彼女の持っているアパートだ。
電話をかけようと試みたが、出発直前に携帯をスマホに替えているため、海外での使い方がよくわからない。パリの市外番号が思い出せない。331? 01?
40分たっても50分たっても友人は現れない。おかしい…。予定通りの到着なのに…。私は到着日か時間を間違えて連絡したのかしら?
手荷物の中のパソコンで、自分の送信メールを確認したかった。だが、まわりに人が大勢いて荷物を広げる事がためらわれた。なんども電話を試すがつながらない。
2時間近く待った。変だ。不安になってきた。どうしよう…。
直接彼女の家へ行くことにする。タクシーはいくらぐらいだったかしら?思い出せない…。とりあえずユーロが必要だ。銀行はどこかとたずねると、出発ロビーにしかないという。
ここは1階到着ロビーだ。スーツケースを押して3階へ。脱いだコートや手荷物で汗びっしょりになった。(パリは寒いはずだったのに…)
ユーロを手に、また1階到着ロビーのタクシー乗り場へ向かう。(疲れた…)
タクシーに乗ってしばらく走ると、反対車線が大渋滞している。
運転手さんが、空港に向かう高速道路で事故があったと説明してくれる。彼女はこの渋滞のなかを、まだ空港に向かっているのかしら?
タクシーのなかから、ようやく彼女の家に電話をかけることができた。
彼女のご主人が電話に出て「彼女はいま空港に着いたところだ、空港から電話をしてくれればよかったのに…」と残念そうに言った。
翌日、食料を両手いっぱいに買い物して帰ってきたら、アパートの入口でドアが開かない。(フランスは防犯が厳しく、建物のなかには住人しか入れない。さらに必ず2重ドアになっている)以前に使っていた4ケタのコードを何度押してもびくともしない。
(家に入ることも出来なくなった…)と、なんだか情けない気持ちになった。
しばらくして同じアパートの顔見知りのマダムが帰ってきて、ようやく一緒に入ることが出来た。
「もうコードではなくなったのよ」と、キーホルダーでのタッチの仕方を教えてくれた。
パリ郊外に住む友達に、久しぶりにパリ着を知らせる電話をした。
日曜日にノルマンディへの日帰りバス旅行に誘われた。
よろこんで参加を希望した。朝7時30分に集合だ。
早朝なのでタクシーを予約することにした。
パリの7時すぎはまだ真っ暗だ。8時を過ぎてようやく明るくなってくる。
もし予約したタクシーが来なかったらどうしよう…と急に心配になる。
空港でのパニックが、翌日のカギの出来事が、私を不安定な気持ちにさせてしまっている。以前、この街で暮らしていた自分が、いまの自分と重ならない。
数えてみると5年ぶりだ。5年もたてば街が変わっても不思議ではないが、私はすっかりこの街から遠くなっている。(慣れ親しんだところのはずなのに…)
日曜日はノルマンディの美しい風景のなかで、久しぶりに会う友人達と楽しいおしゃべりの1日を過ごした。おかげで不安定な気持ちはだいぶ落ち着いた。
3週間の滞在後、以前の自分を見失った少し寂しい気分のまま、深夜便で帰国の途についた。