【寄稿 フォトエッセイ】梅雨どきの楽しみ=三ツ橋よしみ
三ツ橋よしみさん:薬剤師です。目黒学園カルチャースクール「小説の書き方」、「フォト・エッセイ」の受講生です。
梅雨どきの楽しみ 三ツ橋よしみ
1.江戸っ子ゆずり
6月になると、天気図で、沖縄あたりに、東西にのびた梅雨前線を目にするようになる。
梅雨前線は、しばらく、高気圧と低気圧が押したり引いたり、力くらべをする。いつも勝負はきまっていて、梅雨前線はだんだん北へ移動する。東京の朝の空模様があやしくなり、傘をもって出かけることが、多くなる。ある日、気象庁は「関東地方の梅雨入り」を宣言する。
そうなると、気になるのが八百屋さんだ。青梅や赤紫蘇、泥付きラッキョウが目立つ場所に並びはじめる。もうそろそろかな。いや、まだもうひといきかしら。一、二週間まってから、渋谷の八百屋さんに向かう。その店は、渋谷の料理屋さんが客筋らしい。一般の八百屋にはない、むらめ、ほじそ、菊などのつまや添え物の、取り扱いがある。先週は、まだだった。今週あたりそろそろいいんじゃないか?
私は走るように店に行く。売り場に目を凝らす。ありました。私のお目当ての、実山椒です。
青い小さな実は、その日のうちに、ひとつずつ小枝をとり、水洗いして、ゆでてから、流水にさらし、あくをとる。そのまま食べると、くちびるがびりびりして、しびれてしまう。
ちりめんじゃこをみりんとしょうゆで軽く煮たものに、さらした実山椒を加える。煮汁がなくなったら出来上がりだ。とても簡単なのに、季節を感じさせる、特上の味となる。江戸時代の人も食べたんだろうなと思うと、江戸っ子と握手したようなうれしさが、こみあげてくる。お酒のおつまみにはもちろんだけれど、ご飯にのせたり、パンにはさんだりと楽しい食卓となる。
2.平安のむかしに
雨上がりの草地に、もじずり草を見つけた。和名をねじ花という。ラン科の草花である。ピンク色の小花が花茎のまわりにらせん状に並んでいる。丈は10センチから30センチほどで、まっすぐのびた細い茎が風にゆらゆらゆれる。ほっそりした乙女の風情がある、いとおしい花である。
若いころ「もじずり草は、百人一首に歌われているのよ」と、友人に教わった。しのぶ恋の歌である。
河原左大臣が詠んでいる。
『陸奥の しのぶもぢずり誰ゆえに 乱れそめにし 我ならなくに』
もじずり草は、何気ない草はらに咲く、とてもちいさな花だ。そんな花を平安の人々は愛で、恋の歌にまで登場させた。
そして今、車が行きかう道路わきで、その花が咲いている。車が走り去り、風を受けたもじずり草が、大きく茎をゆらした。
梅雨どきの道は捨てがたい。草はらに平安の乙女がかくれている。
3.日本生まれ
ガクアジサイは日本原産。ちいさな花が、雨にゆれる。
写真・文 三ツ橋よしみ
編集 滝アヤ