A040-寄稿・みんなの作品

【寄稿・エッセイ】「幸せの黄色いリボン」=久保田雅子

【作者紹介】

 久保田雅子さん:画家、インテリア・デザイナー。長期にフランス滞在の経験から、幅広くエッセイにチャレンジしています


           幸せの黄色いリボンPDF

           作者のHP:歳時記 季節と暦の光と風・湘南の海から


「黄色いリボン」 久保田雅子


 私のはじめてのライブ体験は、もう40年以上も昔だ。そのころはまだライブという言葉もなく生演奏と言った。

 六本木の交差点に近い『ジェームス』だった。地下の店内に向かう階段から音楽が響いてきて、入る前からわくわくしたものだ。
私は初めての生演奏の雰囲気にすっかり興奮して、友人たちとその後もよく通った。
 カントリー・ウエスタンが専門で、店員たちはウエスタン・ハットをかぶりバンダナを首にまいて、演奏がはじまると手拍子で盛り上げた。
 それにあわせて観客も手拍子で、店内はいつも大いに陽気に盛り上がった。リクエストをすることもできたので、私は大好きな『幸せの黄色いリボン』を毎回リクエストして楽しんだ。

                         (写真:赤坂カントリーハウス店のHPより引用)        

3年の刑期を終えた男が 家路に向かうバスの中だ
彼女には手紙で伝えた まだ僕を愛していてくれるのなら
家の樫の木に 黄色いリボンを結んでおいてくれないか
もし黄色いリボンがなかったら 僕はバスを降りずに通り過ぎるよ
バスの運転手さん リボンがあるかどうか僕のかわりに見てくれないか
自分じゃ怖くて見られない
バスの乗客が騒いでいる 目の前の光景が信じられない
古い樫の木いっぱいに たくさんのリボンがゆれている
                                        (訳詞:久保田)            
          

 軽快なリズムの曲だが、歌詞は切ない。いつも胸がいっぱいになった。
 
 この曲を映画にした山田洋次監督の『幸せの黄色いハンカチ』ができたときには、楽しみに早速観に行った。感動のラストシーンでは高倉健さんが、うれしさを表情に出さない渋い演技で、さすがと思ったものだ。少し前まで日本人は、あまり感情を体では表現しなかったのだ。ただお互いに向き合うと、彼女はそっと彼のバックを受け取って家に入っていく…。
 はためく黄色いハンカチに観客は涙をこらえきれない。


 2012年、お正月のNHKドキュメンタリー番組で、陸前高田市のガレキの中に立つ黄色いハンカチが映しだされていた。山田洋次監督が被災地を訪ねる番組だった。
 被災者の一人菅野啓祐さんは、つらい状況のなかでこの映画を思い出し「とおい、とおい、かすかなきぼう」を込めて大漁旗と一緒に立てたのだという。
 それを知った山田監督は、彼を訪ねて映画に使った旗と同じものを贈った。二つ目の黄色いハンカチが、菅野さんの旗の隣で励ますようにはためく。

    (左は山田監督の贈った黄色いハンカチ、右が菅野さんの旗・NHKのTVより)

 半世紀近くも前にアメリカでヒットした一つの曲が、巡りめぐってかたちを変えて、いま日本の震災後における復興の励ましとなっている。
『信じて、いつまでも待つ』ことが、被災者たちの生きてゆく心の支えとなることを教えてくれる。


文・歌詞翻訳:久保田雅子
編集:滝アヤ 

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