【寄稿・エッセイ】「家政婦のミタ」を見た=久保田雅子
【作者紹介】
久保田雅子さん:画家、インテリア・デザイナー。長期にフランス滞在の経験から、幅広くエッセイにチャレンジしています
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「家政婦のミタ」を見た 久保田雅子
昨年の秋に放送された、テレビドラマ『家政婦のミタ』を見た。
かつて人気シリーズだった『家政婦は見た』という市原悦子さん主演のドラマを連想していたが、まったく別のものだった。
初回から過激なシーンもあったせいか、漫画チックなわざとらしい展開なのに、なぜか引き込まれてしまった。そして毎週、楽しみに見てきた。
家政婦・ミタさんは、父親が育てる3人の子供たちのいる四人家族の家庭にやって来る。その家では、母親が父親の不倫を理由に自殺しているのだ。
子供たちは突然母親を失い、だらしのない父親に失望し、まったくどうしてよいのかわからない。そのなかで、淡々と仕事をする彼女の存在に、バラバラになりかかっていた家族が少しずつ立ちなおっていく過程を描くものだ。
「承知しました」となんでも引き受けるミタさんに、家族みんなでいろいろなお願いをする。自暴自棄になった長女は「死にたいから私を殺して」と頼む。ミタさんはナイフを持って本気で彼女を追いかける。長女はおそろしくなって逃げ回り、自分が死にたくないことを知る。
暗い過去のあるミタさんは、決して笑わない。仕事は完璧だ。毎回、かならず食卓のシーンがあった。ばらばらになりそうな家族が、彼女の作るおいしい食事に心をなごませる。家族の絆は食卓から…、と伝わってくる。
業務命令であれば、彼女はどんなことでもする、不思議な人だった。
いつも黒いカバンを持っていて、必要なものはなんでもそこから魔法のように出てきた。
私はふとP.L.トラヴァース作『風にのってきたメアリー・ポピンズ』を思い出した。40年近くも前のことだ。私の子供たちがまだ小さく、寝るときに毎日少しずつ読んで聞かせた本だ。それは映画(ジュリー・アンドリュース主演)にもなったぐらいだから、その頃は話題の作品だった。
いまでは『不思議の国のアリス』や『ピーターパン』などと並ぶ児童文学の名作だ。
メアリー・ポピンズは家政婦ではなく乳母(ナース)で、子どもたちの世話をするためにやってくる。昔のイギリスにはそのような職業があったのだ。
彼女も風変わりだった。ツンとすましていながら、てきぱきと仕事をする。持っている不思議なカバンには、必要なものがなんでも入っていた。
小型の椅子や折り畳みのベッドまでも出てきた。
無愛想な顔をしながら、魔法を使って子供たちを次々と不思議な世界へ連れて行く、という物語だ。
子供たちはきびしい彼女を怖がりながらも、だんだん惹かれていく。だが、ある日突然、彼女はカバンを持って、風にとともに去ってしまう。
<家政婦のミタ>とはどこか似ている。ミタさんも家族がきずなを取戻し、みんなが元気になると、カバンを持って去って行く。
古い昔(1934年イギリスで出版)の物語と、最近のテレビドラマと不思議に共通するのは、やさしい強さときびしさとで子供たちを導いていく、という点だ。甘くやさしいだけでは、強い人間は育たないのだ。
それがドラマ<家政婦のミタ>大ヒットの秘密なのかもしれない……。
【了】
写真:文:久保田雅子
編集: 滝アヤ