【寄稿・エッセイ】 マスク依存症=久保田雅子
【作者紹介】
久保田雅子さん:画家、インテリア・デザイナー。長期にフランス滞在の経験から、幅広くエッセイにチャレンジしています
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マスク依存症 縦書き
マスク依存症 久保田雅子
私はマスクが苦手だ。うっとうしくなってすぐに外してしまう。
3月の東日本大震災の時、避難所では皆さんがマスクをしていた。それをテレビで見て、1日中マスクをして過ごすなんて大変だなぁ、と思った。ボランティアの人たちも、もちろん皆マスクだ。
最近、なんでもないのにいつもマスクをつけている人がいるのに気づいた。
私がよく行くスーパーのレジで時どき会話をかわす女性も、かならずマスクをしている。最初のころは「風邪をひいているの?」と聞いたりしたが、そのうちに見慣れてしまった。
夏になってもマスクを外さない。(暑苦しくないのかしら…)彼女のマスクなしの顔はいまだに見たことがない。
以前、通院していた歯科の先生がマスクを外した時、想像と違う顔立ちに驚いたことがあった。目から下の顔は見るほうが勝手に想像してしまうのだ。
娘が開業するクリニックにも、いつもマスクをつけている女性スタッフがいる。仕事中だけでなく通勤でもミーティング中でもマスクを外さないという。
病院なので職業上、マスクをやめさせることはできない。私もたびたび顔を合わせるが、彼女の目から下は私の想像だけの顔だ。鼻が高いのか、口が大きいのか…、なにか隠したいものがあるのか…。お化粧をしないで済むからだとしたら、なげやりすぎる。娘は「マスク病なのよ」と言う。不思議だ。
友人の息子さんがいつも学校へマスクをして行っていたら、先生に風邪もひいていないのにマスクをつけているのは、なにか精神的に問題があるのではないかと言われたという。彼は受験生だ。不安がいっぱいの時だ。心の不安定な気持ちをマスクで隠すと安心するのかもしれない。もしもそうだとしたらマスクもいまの彼には大切だ。不安がなくなればマスクは不要になる。
以前、外国人に「日本人はマスクが好きね」と言われたことがある。確かに海外でマスクはほとんど見かけない。風邪をひいてもマスクはしない。
日本は近年、花粉症が強力に広がり、インフルエンザの流行もあってマスクの需要が増えたことは確かだ。とくに震災後からはマスク依存症?らしき人たちが増えたように思う。ピンクやブルーのマスクも売っている。そのうちにマスクはメガネのように、顔の一部になっていくのだろうか。
私には、マスクであえて口を隠し、人との対話を拒んでいるように感じる…。